1.事業主の義務違反
平成9年というのは、労務管理上、画期的な年です。男女雇用機会均等法が改正・強化され、労働基準法からも「女子」保護規定(時間外・休日労働や深夜労働などの規制)が撤廃されました。それまで「遵守」しなければ「違法」であったことが「差別」に一変しました。看護婦という呼称は看護師に、スチュワーデスは客室乗務員になりました。女子ではなく女性になりました。

その男女雇用機会均等法の改正で、あまり話題にはなりませんでしたが、その第11条第1項で「事業主は、その防止や対応のための雇用管理上必要な措置(問題に対する対策・施策)を講じなければならない」という「事業主の措置義務」が定められました(それ以前は、心を配る「配慮義務」)。
それ以来、セクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」)は、被害者と加害者との問題だけではなく、それ以上に「会社」の不法行為や債務不履行であり、使用者責任を問われ、損害賠償の請求対象とされる、セクハラ事件が増加(顕在化)することになりました。
それを行った部長さんや次官さんを処分するだけでは済まなくなったのです。
「社長さん・・・大阪府知事がいくら払ったか・・・ご存じですよねぇ」
「!」
(あれは本人が払ったのですが・・・もう古い話。)

2.セクハラの定義と
あらためてセクハラとは「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること(均等法11条)」です。
○ 職場とは、労働者が業務を遂行する場所を指し、労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、職場に含まれます。
例えば、取引先の事務所、取引先と打合せをするための飲食店、顧客の自宅等であっても、職員が業務を遂行する場所であればこれに該当します。また、職務の延長とされる宴会なども含まれます。
○ 性的な言動とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指し、それぞれ次のようなことが含まれます。
① 性的な内容の発言
性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等。
② 性的な行動
性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等。
○ 労働者とは、パートタイム労働者、契約社員等を含む、事業主が雇用するすべての労働者をいいます。
また、派遣労働者についても、雇用している派遣元事業主のみならず、派遣先事業主にも措置義務が課せられます。
○ 不利益を受け(対価型)とは、職場における性的な言動に対する労働者(被害者)の対応(拒否や抵抗)によっては、その労働条件等についての利益・不利益がちらつくというものです。
例えば、立場を利用して「オレの言うことを・・・・聞いた方が良いよ・・・・」という時代劇に出てくる悪代官のようなイヤらしいものです。
「そんな社員、ウチにはいないから」と思われるかもしれませんが、永く社会保険労務士をやっていると、意外といるものです。煩悩具足の凡夫・火宅無常の世界かはや。
それが本来セクハラを取り締まらなくてはならない管理部門の責任者であれば、経験上罪2等はあがります。
○ 就業環境が害される(環境型)は、文言通りのことですが、特に注意しなければならないのは、後で行為者とされる者にとっては、まさかの、何気ない、ウケねらいの、親密さの表現の、冗談のつもりの、害意のないつもりの、いわゆる「そんなつもりはなかった」という言葉や行動です。
それで「環境が害された」「被害を受けた」と言う本人にとっては、確かに環境が害されたのです。
要は、別に述べるパワハラと違って、性的な言動による「嫌なこと」は大なり小なりセクハラです。それがそのまま損害賠償の対象になるとは限りませんが・・・・。

2017年1月に施行されたセクハラ改正指針には、「同性に対するもの」だけでなく「被害者の性的指向又は性自認にかかわらず」とあり、いわゆるLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)などの性的少数者に対するセクハラも、セクハラ指針の対象となるとされています。

3.必要な措置
会社が「やるべきこと(必要な措置)をしていないからセクハラが起きた」と言われるわけですから、会社は「やるべきこと」をしておかなければなりません。
必要な措置とは、厚生労働省から出ている「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」に示されています。
実務的に簡単に要約すると、
① 「こう話したり行動したりするとセクハラになるから注意しよう」と知らしめること。
② 就業規則などに「セクハラをしてはいけない」「するとこうなる(戒告処分から懲戒解雇まで)」と規定しておくこと。
それがなかったがため、被害者から訴えられるだけではなく、行為者からも不当処分と訴えられて、トラブルが貴重な時間と金をかけて長期化し、顕在化し、企業の信用をさらに失墜させることがあります。
③ 相談・苦情に対応する担当(窓口)をあらかじめ定めておくこと。
いきなり外部に相談されると、そのまま団体交渉や「事件」になります。
④ セクハラが起きてしまったら、迅速に事実関係を確認し、特に行為者については就業規則に基づいて措置すること。そして再発防止措置を実行すること。
⑤ それらの相談や事後対応の際は、当事者のプライバシーを保護し、本人や事実確認に協力したことによる不利益な取扱いを禁止するよう定めておくこと。それを知らしめておくこと。
そのように、「やるべきこと」をやっておくことが、使用者責任を免責されることになり、社内秩序を維持していく基本の一つです。

阿世賀 陽一