1.女性労働者への不利益な取扱いの禁止 
事業主がその雇用する「女性労働者」が妊娠したこと、出産したこと、その他妊娠・出産に関すること、そして育児・介護休業等の申出・取得したことなどを理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは禁止されています。
病院に理学療法士として勤務し、副主任であった女性が妊娠を理由に降格されたことについて、最高裁が違法・無効と判断し慰謝料も含めた賠償を病院側に命じた、いわゆるマタハラ判決は、記憶に新しいところです。

(広島中央保健生協病院事件・最判平26.10.23)

「解雇その他不利益な取扱い」とは、厚生労働省の指針では、次に掲げるものが該当するとされています。
① 解雇すること。
② 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
③ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
④ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
⑤ 就業環境を害すること。
⑥ 不利益な自宅待機を命ずること。
⑦ 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること(育児休業等)。
⑧ 降格させること。
⑨ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
⑩ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
⑪ 不利益な配置の変更を行うこと。
⑫ 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。

2.上司・同僚による「男女労働者」へのハラスメントに対する防止措置義務
それに加えて、平成29年10月1日には、妊娠・出産したこと、育児・介護休業等の利用に関する上司・同僚からの言動により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男女労働者」等の就業環境が害されること(ハラスメント)のないよう相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられました。
女性に対することをマタニティーハラスメント(マタハラ)、男性に対することをパタニティーハラスメント(パタハラ)といいます。
このハラスメントには、
(1) 妊娠等をしたことそのもの(状態)への嫌がらせ
(2) 制度等の利用への嫌がらせ
があります。
○ 制度等とは、次のものが挙げられます。
<男女雇用機会均等法が対象とする制度等>
① 通院等の母性健康管理措置
② 坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限
③ 産前休業
④ 軽易な業務への転換
⑤ 変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休
日労働の制限、深夜業の制限
⑥ 育児時間
<育児・介護休業法が対象とする制度等>
① 育児休業(原則として子が1歳になるまで取得できる)
② 介護休業(対象家族1 人につき通算93 日間取得できる)
③ 子の看護休暇(年間5 日間(子が2人以上の場合10 日間)取得できる)
④ 介護休暇(年間5 日間(対象家族が2人以上の場合10 日間)取得できる)
⑤ 所定外労働の制限(残業免除)
⑥ 時間外労働の制限(時間外労働は1カ月24 時間、1年150 時間以内)
⑦ 深夜業の制限
⑧ 所定労働時間の短縮措置
⑨ 始業時刻変更等の措置

○ 事業主による防止措置が必要となる、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するマタハラ、パタハラには、次の類型があります。
① 上司が解雇その他不利益な取扱いを「示唆」する。
「妊娠したのなら早めに辞めてもらうしかない」
「育児休業したいなら辞めてもらう」
「君にはもう昇進はあきらめてもらう」等
② 上司・同僚が妊娠等をしたことに対して、繰り返し、継続して嫌がらせをする。
「妊婦はいつ休むかわからないからな」
「こんな大変なときに妊娠するなんて」等
③ 上司・同僚が妊娠・出産・育児休業等の制度・措置を利用しないように言動する。
「(制度を)請求することはやめてほしい」
「男のくせに育休なんて」
「私なら請求しないわ」等
④ 上司・同僚が制度等を利用したことにより嫌がらせをする。
「残業できないから仕事もできない」
「自分だけ時短して周りの迷惑も考えてよ」等
このように妊娠等の状態や育児休業制度等の利用等と嫌がらせ等となる行為の間に因果関係があるものがハラスメントとされます。

上司だけではなく、同僚による「何気ない言葉」が含まれることは重要です。
「お互いさま」という寛容な風土づくりのなかで人材を活用していかなければなりません。

なお、業務体制を見直すために育児休業等の期間を確認することや妊婦への体調と業務について配慮することなど、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて業務上の必要性に基づく言動によるものはハラスメントには該当しません。
また制度等の利用を希望する労働者に対する調整の依頼や変更の相談は、強制にならないように注意しなければなりません。

3.防止措置義務の内容
事業主が講じるべき措置の内容は、次のことが挙げられます。
① 事業主の方針の明確化と制度等の周知、どのようなことがマタハラ・パタハラとなるのか、マタハラ等の行為者には厳正に対処することの周知と啓発
② あらかじめ相談窓口を定めておくなど、相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに係る迅速かつ適切な対応
④ 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
⑤ 相談者・行為者等のプライバシーの保護や相談、事実確認に協力した者を不利益にならないようにすること
これらは、別稿のセクハラとパワハラへの対応と共通したものがあります。
ハラスメント全般に対する相談窓口を設置し、相談も一元的に受け付ける体制の整備が望まれます。
ハラスメント防止マニュアルの作り方としては、これら3つのハラスメントの関する厚生労働省の指針やガイダンスを最大公倍数的にまとめることになりますが、重要なことは企業の実情に合わせて実効性のある①相談ルート②指導・解決ルートを設定することです。

なお、派遣労働者の「派遣先」にも、育児休業等の取得などを理由とした労働者派遣の役務の提供を拒むことなどの不利益な取扱いは禁止されており、妊娠・出産、育児・介護休業等を理由としたハラスメントの防止措置が義務づけられています。

阿世賀 陽一