1.会社の健康配慮義務
社会保険労務士をしていると顧問先さまから、ときおり「社員の○○が死亡した!」という悲報を受けます。
その時、お聞きすることは、第1に「どこで?(社内か、家か、遊びでか)その原因は?」、次に、過重労働を懸念して「残業とかは・・・・どうでした?」。
そして、「健康診断は、ちゃんと実施していましたか?」です。

会社には、社員に対して安全(健康)配慮義務(労働契約法)があり、さらに健康診断を実施し「健康診断個人票」を作成して5年間保存する義務などの、健康管理責任(労働安全衛生法)があります。
法律で義務や責任とされていることを、確実に実施していることが、社員、そして会社を守るための最低限のことです。
わが国の死亡原因の3割を占めるものは、脳出血・くも膜下出血・心筋梗塞などの脳・心臓疾患です。
これらは動脈硬化・動脈瘤などの血管にかかわる「基礎疾患」が食生活・生活環境などの日常生活要因、遺伝的要因、そしてなによりも加齢によって、徐々に悪化し、ある日突然に発症するものです。
人間、歳をとれば誰もが最後にはお迎えがくるものですから、それは自然なことです。
しかし、「基礎疾患」の「自然な悪化」のカーブが、仕事が原因で急激に右肩上がりに「増悪(ぞうあく)」して発症したものならば、業務上の疾病とされて労災補償の対象になり、会社が健康診断等によって健康障害が認められた社員について「増悪防止措置」をとる「義務を怠った」とされたときには、その労働者や遺族から安全配慮義務違反として民事損害賠償請求訴訟を受けるというリスクにつながります。

2.基礎疾患の掌握
義務と責任を果たし、本人と会社を守るキーワードは、健康診断による「基礎疾患の掌握」ということになります。
さて、その健康診断で健康障害が認められる者は、どれほどの割合でいるものなのでしょうか。
厚生労働省が発表する定期健康診断の有所見率(異常所見がある者の占める割合)の、過去の推移を見ると、平成20年には50%を超え(51.28%)、さらに年々増加しています(平成28年53.76%)。
日本の労働者の2人に1人が「異常」ということです。

そのような異常事態に平成22年3月に厚生労働省から次のような通達が出ています。

  • 有所見者について、医師の意見を勘案し、作業の転換、労働時間の短縮等の就業上の措置を確実に実施すること
  • 定期健康診断結果を労働者へ確実に通知すること
  • 保健指導、健康教育、健康相談を行い、労働者自身も健康の保持に努めること

「労働者に確実に通知すること」といわれても、会社から受診料をもらっている医療機関が「個人情報保護法による」として、結果を直接社員に送付してしまうことがあります。
また、社員のなかにも「俺のプライバシーだ!」「個人情報は保護だろう!」と主張して、自分の健康情報を秘匿する者もいます。
(そのように「自己中心」な人は、コモンセンスとしては「健康配慮」に値しないのですがね)
そして、労働安全衛生法による会社の義務と個人情報保護法による本人の保護の狭間で悩まれる、人事・総務のご担当も多いのではないかと思います。
しかし、世の中それほど理不尽なものでもありません。
確かに医療機関は、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないものですが、厚生労働省のガイドラインは「医療機関が、労働安全衛生法により、事業者(会社)が行う健康診断を受託した場合、その結果である労働者の個人データを委託元である事業者(会社)に対して提供することについては、本人の同意が得られていると考えられる」としています。「黙示の同意」と捉えられるのです。
法律によって、健康情報を把握する義務がある会社が実施し、社員本人にも受診義務がある健康診断を受けているのだから、それは理の当然です。
とは言え、望ましいことは、健康情報の利用目的を特定し、取扱いなどの管理規定を定め、周知して、当然に同意を得ている体制、または本人からも報告を受け得る体制を構築することです。

3.社員の努力義務
労働契約によって、会社に「安全配慮義務」が生じるならば、当然社員には「労務提供義務」に付随した「健康保持努力義務」があるものと解されます。
多くの就業規則の服務規律の第1項第1号には「健康に留意して元気溌剌な態度で就業すること」と書いてあります。それは、もっと掘り下げ、態度などではなく努力義務として規定し、そのようにマネジメントしていくべきことです。
昔 ・・・。高度成長期に、田辺製薬の滋養強壮ドリンク剤アスパラのCMで長島茂雄氏が躍動しながら(野球選手と労働者にとっては)
「カラダだ!カラダだ!カラダが資本だ!」と言っていました(記憶では)。
実にわかりやすいコピーライトです。

健康診断などの健康管理は、会社の社員に対する善良な福利厚生の一環などではなく、リスク・マネジメントの最前線、そして「雇い・雇われること」の根本義と捉えるべきものです。

阿世賀 陽一